■さまざまな検査の中でも、血液検査と眼底検査だけで、
内臓疾患や動脈硬化などの血管の状態がわかる。
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「最近は検査の精度が向上し、重大な病気を見落とすことは、ほとんどありません。血液検査と眼底検査だけでも、身体の状態がかなりのところまで分かります」と岡田正彦さん(新潟大学 医学部 副学部長)。
血液検査で分かるのは、内臓の疾患や血管の状態。
眼底検査では、目はもちろん動脈硬化の程度まで判別することができる。
「これらの検査の優れているところは、正常値を多少超えてしまったとしても、ある程度までは自分で改善できること。今までの生活習慣を見直して健康に暮らすために、検査結果を役立てればいいんです。それが本来の検査の目的なのですから」
しかし、たとえ1目盛りでも正常値を超えていれば「異常あり」と判定されてしまうのが検査。となると、「異常なし」に戻すためには、すぐ治療が必要なのかと考えてしまいがちだ。
「それほど慌てる必要はありませんよ。もちろん見極め方は必要ですが、いきなり治療をしない方がいいケースも少なくありません。但し、医師に任せきりだと、すぐに薬を出されてしまうので、受ける側にも知識は必要です。検査の意味をよく理解して、結果として出てきたものを判断する力を養ってください」
「検査でも治療でも、それを受ける人が主体だということを忘れないで下さい」
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■検査すれば、すべてが安心というわけでもない。
治療の必要がない、”病気でない病気”にされることも。
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では、血液検査と眼底検査以外の検査は、あまり意味がないのだろうか。
「そんなことはありませんよ。腹部の超音波(エコー)検査では肝臓、胆嚢、腎臓の小さな病巣が確実に発見できます。また、心電図の検査では、電気現象から間接的に心臓の状態を見られます。でも、ときに誤った結果が出ることもあるので、心臓の動きを直接、観察できる超音波検査がより確実でしょうね。心臓で気になることがあるようなら、私は心臓エコーの方がいいと思います」
正しい検査は大切だが、正確すぎる検査が、かえって弊害になることもあるという。
「人間ドックでは見落としは禁物です。疾患を見落として関係者が告訴されたりするケースもあるので、そのために万全を期して、個人差と考えた方が適切かもしれない程度の異変、”病気でない病気”が発見されたりすることも多いのです。例えば、左心室肥大と病名がつけられても、他の検査では異常がなく、自覚症状もなければ、治療の必要はありません。不整脈も同じですね」
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■検査の意味を理解して、自分で検査項目を選ぶ。
医師まかせではなく、受ける側こそ知識を持つべき。
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胃や肺のX線検査は、いわゆるガンを発見するために行われているが、「私は、がん検診には懐疑的なんです」
15年ほど前に発表されたフランスでの追跡調査がある。6000人の半数を1年に2回、肺がん検診を受けることを義務付けるグループ、一方を何もしないグループに分け、3年間の暮らしを追った。その後は?
「検診を受けたグループの死亡率が明らかに高かったのです」
胃がん検診、乳がん検診、大腸がん検診の有無で死亡率を比較する追跡調査でも、それぞれ、同様の結果が出たという。なぜ、そんな皮肉な結果になるのだろうか。
「ひとつはレントゲンの被曝による害だと考えられます。また検査で、ごく早期の腫瘍も見つかれば手術などの治療を行うことになる。そのために抵抗力、免疫力は低下して、結果として死に繋がってしまったと考えられます」
私たちの体には毎日、数百個のがん細胞ができるともいわれる。だからといって必ず、がんにかかってしまうわけではない。
「元気な身体なら、いつのまにか、消えてしまうことがほとんどです。検査で見つかったちょっとした異状にまで過剰な医療を施すという現状を、私は本当に怖いと思っています」
岡田さん自身は、職場で義務付けられている血液検査くらいしか受けていない。かわりに「バランスよく食事をとる」「適度な運動をする」「ストレスをためない」をモットーにして、もう10年になる。
「どのリスクを選ぶかということだと思うんです。過剰な医療によるリスクを避けるために検査を受けないということを選ぶのか、検査や過剰な医療のリスクを覚悟しても、がんの芽と言われるものをすべてきれいに摘む医療を選ぶのか。人間の身体はそれぞれ違いますし、何が起きるか分からない。正解はないんです」
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■検査値は日々、変化するもの。過去のデータとも比較して検討。
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血液検査の数値が正常範囲を1目盛り、超えているだけで病気だと思い込んでしまう人が多いが、「検査値は毎日、微妙に変化するもの。季節によっても異なりますし、朝と夜で値が違うこともある。一喜一憂せず、生活習慣を見直して、改善していくことが何より大切なんです」
過去のデータがあれば、比較してみるといい。正常範囲内であってもコレステロール値が年々あがってくるようなら、脂肪を減らし、魚や大豆製品、緑黄色野菜を充分にとるなどの工夫をする。
「血液検査で異状が出ても、危険域でないかぎり、食事を徹底的に改善すれば、たいていのものは正常範囲に戻すことができるんですよ」
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<ご紹介> 岡田正彦 先生(新潟大学 大学院 教授、新潟大学 医学部 副学部長)
著書に『ドック・検診でわかる病気、わからない病気』(講談社+α新書)がある。
(ご本人よりご紹介の了解を頂いております)
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